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新作ゲームのこと

美しい「プロセスのモデル化」

生まれて初めてプレイしたウォーゲームは『Midway』(AH, 1964)だった、と100回くらい話していると思います。何に痺れたかと言えば、空母戦のプロセスが鮮やかに描かれていたこと。見えない敵を探し出し、艦載機の発進準備をし、敵を見つけたら攻撃隊を送り出し、敵CAPと空中戦を行い、それを突破した雷爆撃機を対空砲が遅い、生き残ったものが敵艦を攻撃する。「ゲーム」でそこまでできるなんてすごい。

『Midway』のアプローチはいささか直截な表現で、今はもう少し婉曲的なものを好みますが、直球が嫌いなわけではありません。ここのところ火の玉ストレートを2球続けて受けてきましたので紹介したいと思います。本日はソワソンの戦いをテーマにした「Decisive Victory 1918」シリーズの第1作『Siossons』。

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「ソワソンの戦い」で検索すると486年に飛ばされてしまいますが、それから1400年後、第一次世界大戦末期の話であります。ドイツ軍による1918年の春季攻勢が頓挫した後、協商国による反撃をテーマにした1ユニット=師団規模の作戦級ゲーム……なのですが、3ターンで1日を構成するというタイム・スケール。この時間的なディテールによって、師団という作戦単位の運用プロセスが明確に描き出されているのです。

朝を迎えると、その日の日中(AMターンとPMターン)に使用できる軍砲兵支援ポイントの配給があります。全てAMから使えれば良いのですが、中にはデリバリーがうまくいかずPMターンに届くものもあります。夜明けとともに突撃を準備していたのにどうしてくれるんじゃい、という葛藤と朝イチで戦わなければなりません。というのも突撃をするためには事前に(朝イチ突撃をかけたいなら夜間ターンに)、部隊は移動力を使って準備しなければなりません。「砲兵の支援が遅れる? こっちは突撃準備が終わっているんだぞ」からの突撃延期か突撃強行か。

突撃を延期したなら、敵はこれ幸いとばかり後退するかもしれません。そうすればまた前進し、移動力を消費して突撃の準備をして……と時間を浪費することになります。その時には敵に増援が間に合って、守りが堅くなっていることも。

ともあれ、使える砲兵ポイントが決まったら、目標ヘクスに砲兵マーカーを置き(大口径・中口径・航空支援の3種あり)ますが、防御側からも応射があります。砲撃解決後に突撃。防御側は自発的後退なども行えます。戦闘結果表は、攻撃側に有利なダイス目修整がない限り、攻撃側のほうが損害が大きいか相討ち(!!)。泣きながら攻撃することになります。

その後で移動、さらに突撃(周密攻撃)ほど時間をかけずに行う応急攻撃(威力偵察など)も行えますし、次のターンに再び突撃するために移動力を消費することもできます。応急攻撃は両軍にほとんど損害が出ないので、使いどころが難しい。ユニークなのは、敵の移動によって孤立してしまった=連絡線を断たれたユニットは問題無用でその瞬間に後退しなければならないところ。ある自軍ユニットが後退することで別のユニットが孤立すると、それも連鎖的に後退を開始します。後退したユニットには「退却」マーカーが置かれ、自軍ターンの移動フェイズには移動できなくなります(後退は可能)。まさに浸透戦術。

なのですが、フランス軍に突撃兵(ストストルッペン)はいません。攻撃時にダイス目修整を与えてくれる戦車とスタックした師団がこの役割を果たしてくれます。が、この頃の戦車ですから機械的信頼性に乏しく、1日稼働させると確実に壊れます。使わなければ損耗することはないので、いつどこで戦車を投入するのか、協商軍プレイヤーにとって悩ましい判断になるでしょう。

というのも、ステップの半分を失った協商軍師団は疲弊し、それ以上の移動も攻撃もできなくなります(だったら最初からステップ数半分にして除去にしろよ。と思われるかもしれませんが、戦線維持のためにどうしても残さざるを得ない状況があるのです)。効率の悪い攻撃を繰り返すとたちまち疲弊師団の山ができ、即攻勢中止に追い込まれます。できるだけ有利なダイス目修整を得て、自軍の損害を抑えようとするなら、突撃前に砲撃を集中し、敵を混乱させ、そこを戦車とともに攻撃を行って敵を後退させ、孤立させ、できるだけ損害を抑えて前進しなければならないのです。守るドイツ軍としても敵に無駄な攻撃を行わせたいところですが、兵力に余裕があるわけではないので部隊をいたずらに損耗させるとあっと言う間にソワソン防衛線を破られてしまいます。後退ヘクス数に上限なし&回復能力はドイツ軍のほうが上、というふたつを有効に活用して計画的に後退する必要があるのです。

ステップの他に師団には混乱レベルがあり、正常> 分散> 衝撃(以後、衝撃2, 3……と増えていきます)と悪化していきます。ステップの減り具合と混乱状態を見ながら師団のローテーションを回していく必要があります。

マイナーな戦い(ゲーム化は初?)ゆえにセールスは厳しいかと思いますが、第一次世界大戦末期の戦いをストレートにモデル化しております。ルール(日本語版で24ページ+チャート4ページ)を読むだけでもデザイナーの意気込みが伝わってきますので、是非。




by yas_nakg | 2021-07-08 08:26 | 新作ゲームのこと

歴史系ストラテジー・ゲームの話が中心です。


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